第24回定例研究会

特定技能1号(外食業分野)の新規在留資格停止措置に関する研究結果分析と見解

報告日: 2026年6月15日  |  発信: 外国人適正雇用プロジェクト(外国人適正雇用プラットフォーム)

はじめに
私たち「外国人適正雇用プラットフォーム」は、外国人雇用において発生する様々なミスマッチの解消を目的として、公益財団法人トヨタ財団の助成を受け、大阪の外食業界を核に2024年5月に設立されました。外国人を雇用することに対して経営者が有する法的・社会的・倫理的責任を明確にし、外食業界自らが中心となって適正雇用を推進していくという気概を持って活動を続けてまいりました。そのさなかに生じた今回の外食に関わる在留資格の「一時停止」には、大きなショックを受けております。本見解は停止措置の単なる賛否を論じるものではなく、制度の安定的運営に必要な改善点を客観的に検討することを目的としています。

第1章 「一時停止」を考えるための前提

1-1. 政府の政策目的の理解

今回の一時停止措置により、多くの外国人就労希望者、受入れ企業、人材関連事業者が多大な影響を受けました。しかし、この措置を評価するにあたっては、まず政府が何を守ろうとしたのかを理解する必要があります。主な目的として以下の4点が挙げられます。

  • 受入れ見込数の管理: 特定技能制度では産業分野ごとに受入れ見込数が設定されており、外食業分野では5万人と定められています。政府はこの水準の超過を回避しようとしました。
  • 制度への信頼維持: 上限を超過して管理不能に陥る印象を与えることを防ぎ、国民からの信頼を維持しようとしたと考えられます。
  • 管理可能性の確保: 急速な受入れ拡大による、行政の在留・転職管理能力や支援体制のキャパシティ超過を避ける目的があった可能性があります。
  • 市民への説明責任: 外国人労働者受入れに対する様々な懸念に対し、定められたルールに従って厳格に管理している姿勢を示す必要がありました。

1-2. 雇用者の重い責任

自社の事業収益のために人を雇用することは、その人の人生、そして社会全体の労働秩序を維持する上で雇用者に重い責任を課すものです。法遵守はもとより、就労者の人権と尊厳を尊重した倫理的な雇用を追求することは企業の使命です。外国人雇用は国境を越えた人の移動を伴い、双方の社会に影響を及ぼすため、この責任はより一層重くなります。私たちは一義的にこの「雇用者の責任」の立場から今回の事態を考察します。

第2章 外国人就労希望者の立場から

2-1. 人生的・経済的影響と「予見可能性」の喪失

特定技能資格を得るためには、日本語能力および業務スキルの試験に合格する必要があり、就労希望者は多大な時間と受験費用を自己負担して準備を進めています。今回の突然の停止措置は、これら就労希望者の「予見可能性」を完全に奪う結果となりました。多額の人的・金銭的投資が無駄になるリスク、生活設計や人生プランの崩壊など、その負の影響は計り知れません。制度変更時には、こうした当事者への配慮や適切な経過措置が強く望まれます。

第3章 受入れ企業・外食業界の立場から

3-1. 深刻化する人手不足との衝突

厚生労働省の統計によると、宿泊業・飲食サービス業の未充足求人は約22万人、欠員率は全産業で最高水準(4.8%〜6.1%)に達しており、3社に2社以上が「人が集まらない」という深刻な事態に直面しています。さらに有効求人倍率は2.53倍と、全産業平均を大きく上回る中、今回の「一時停止」は外食産業現場の悲鳴と真っ向から衝突しています。採用計画のとん挫、内定者への対応苦慮、引き抜き競争による労働市場の歪み、最悪の場合は出店計画の中止や廃業に追い込まれるなど、直接的な経営損失が発生しています。

外食産業の社会経済的重要性

外食産業は市場規模約30兆円、雇用者数約400万人を抱える我が国有数の基幹産業です。国民の食生活を支えるだけでなく、地域経済の活性化、インバウンド観光の受入れ、日本食文化の発信という重要な国策の基盤でもあります。このような重要産業への影響がどこまで考慮されたのか疑問が残ります。今後はより実態に即した精緻な受入れ見込数の試算・調整メカニズムが必要です。

第4章 人材関連事業者の立場から

4-1. 各国送出機関および国内紹介事業者の困惑

海外のまともな送出機関や教育機関は、日本の特定技能制度に沿った教育プログラムを構築し、投資を行ってきました。突然の停止と再開見通しの不透明さは、進路指導の混乱や授業料返還トラブルを招き、「日本の政策は不安定で信頼できない」という不信感を生んでいます。国内の人材事業者にとっても、せっかく透明化・健全化してきた外国人紹介市場が、門戸を狭められたことによる需要圧迫によって、再び違法ブローカーや不適正雇用というアンダーグラウンドな領域へ逆戻りしてしまうのではないかという強い懸念が広がっています。

第5章 地域市民・社会の立場から

5-1. 市民が抱く不安の本質

今回の措置において政府は明言していませんが、外国人増加に対する地域市民の不安感情は背景として無視できません。市民が抱く不安には以下のような本質的な課題が存在します。

  1. 治安・地域コミュニティの維持への懸念: ルール(ゴミ出し・騒音等)の不徹底や、報道による治安悪化へのイメージから生じる不安(社会統合の問題)。
  2. 労働市場・社会保障への不信: 安価な労働力の流入による賃金抑制懸念や、社会保障制度のフリーライドに対する誤解と不公平感。
  3. 政府の管理体制への不信: 「外国人が悪い」というより、「政府が制度を本当にコントロールできているのか」という不信。

雇用事業者や業界は、利益を享受する当事者として、これらの市民の不安に正面から向き合う社会的責任があります。単に「差別や無理解」と片付けるのではなく、市民生活の安心を守るための主体的な行動指針を示すことが求められます。

第6章 対話の再構築と提言

今回の一時停止措置を通じて浮き彫りになった最大の問題は、関係者間における「情報の非対称性」と「対話不足」です。この状況を改善するため、当プラットフォームは以下の具体的な提言を行います。

【政府への提言】

  • 事前予告制度(シグナル制度)の導入: 段階的な警戒水準(注意喚起→警戒→停止検討→停止)を設け、予見可能性を確保する。
  • データの定期公表: 在留者数、申請件数、見込数到達予測をオープンにする。
  • 再開基準の明確化: 停止だけでなく、再開の条件とプロセスを明示する。
  • 官民協議会の設置: 入管庁、農水省、業界団体、当事者、研究者による対話の場を作る。

【事業者・業界への提言】

  • 外国人雇用指針の策定: 単なる法令遵守を超え、地域社会との共生を含む倫理的行動基準を確立する。
  • 地域社会・市民への説明責任と対話: 自治体や学校との意見交換を行い、発生する課題から逃げずに説明責任を果たす。

結びにかえて
私たち外国人適正雇用プラットフォームは、外国人雇用に関わる全ての当事者の対話の場を作ることを使命としています。今回の一時停止措置を契機として、情報の非対称性を解消し、日本社会にとっても外国人本人にとっても、持続可能で信頼される適正雇用の仕組みづくりに向けて決意を新たに活動を推進してまいります。

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